高橋哲哉さんが講演のなかで強調されたのは、北朝鮮などの脅威から自国を守るために軍隊を持つのは当然、という風潮が広がる中、果たして軍隊は国民を守るのか?という根本的な問題です。
この問題から国民の目をそらすため、文科省は沖縄戦での集団自決が軍の強制によって行われたことを教科書から削除するよう求め、軍隊が国を守るために住民を死に追いやったというネガティブなイメージを払拭すると同時に、自ら選んで国のために死を選んだという美談として残し、軍事活動を進めるにあたって必要な国民の意識改革をすすめることを目的にしている、と高橋さんは指摘されています。
「国民の生命や財産を守るのは警察の使命(警察法)であって自衛隊は国の独立と平和を守る(自衛隊法)のであり、この場合の『国』とは国の体制、すなわち国体であり国柄をさすのであって、決して個々の国民を意味するのではない」という来栖弘臣さんの文章も印象に残りました。
自民党の憲法草案の前文には「国民は帰属する国や社会に愛情と責任と気概を持って自ら守り支える責務を共有する」、つまり国民はイザとなったら自らを犠牲にしても国を守り支えるのだ、とうたっています。これは元防衛庁長官の久間章生氏が国民保護法制をめぐる議論の中で「国家の安全のために個人の命を差し出せなどとは言わない。が、90人の国民を救うために10人の犠牲はやむをえないとの判断はありうる。」と述べていることにも象徴されています。
しかし、誰をどこまで犠牲にするのか決めるのは為政者であり、国民が決めるのではありません。戦争は国家権力者および利益を共有する人々が国民を犠牲にして行うものであるということを、私たちは肝に銘じておかなければいけません。
最後に、長谷川如是閑が1929年に紹介した、戦争をなくすためにデンマークの陸軍大将フリッツ・ホルムが起草したという「戦争絶滅受合法案」が紹介され、なるほどもっともだと感心させられましたのでご覧下さい。これが制定されれば、確かに戦争はなくなります!
「戦争行為の開始後又は宣戦布告の効力の生じたる後、十時間以内に次の処置をとるべきこと。即ち下の各項に該当する者を最下級の兵卒として召集し、出来るだけ早くこれを最前線に送り、敵の砲火の下に実戦に従わしむべし。
一、国家の元首。但し君主たると大統領たるとを問わず、尤も男子たること。
二、国家の元首の男性の親族にして十六歳に達せる者。
三、総理大臣、及び各国務大臣、並びに次官。
四、国民によって選出されたる立法部の男性の代議士。但し戦争に反対の投票を為したる者は之を除く。
五、キリスト教又は他の寺院の僧正、管長、その他の高僧にして公然戦争に反対せざりし者。
上記の有資格者は、戦争継続中、兵卒として召集さるべきものにして、本人の年齢、健康状態等を斟酌すべからず。但し健康状態に就ては召集後軍医官の検査を受けしむべし。
以上に加えて、上記の有資格者の妻、娘、姉妹等は、戦争継続中、看護婦又は使役婦として召集し、最も砲火に接近したる野戦病院に勤務せしむべし。」